話す相手との情報量の格差

今日は、地元のコアワーキングスペースで作業をしていましたが、その際に、ITの企画・開発者を経験してから経営者になった方とお話しする機会がありました。
ちなみに、私もIT開発分野からの出身者です。

今回の記事は、IT業界を中核とした「話す相手との情報量の格差」について書いていきます。

ITシステムを導入するお客さんとITシステム開発側との用語に関する、よもやま話

話の1つとしてあったのが、自分と、お客さんのIT知識の格差についてです。
今回話した方は、「独立後に経営者や公的機関の方との話でSaaSとかIaaSという用語を使い失敗した」と話していました。
SaaSやIaaSとは、インターネット上で展開するクラウドサービスの基盤部分の形態の種類のことで、IT関係者からすると一般知識だと感じてしまう用語です。
しかし、クラウドという単語ですら、スマートフォンなどを使う一般の人レベルならボンヤリとイメージができる、ITを全く知らなければ聞いたことがある、ぐらいの単語です。

こういった専門用語を知らない人に話してしまった経験は、私自身も何度も経験しています。
例えば、初めて要件定義の担当をした時に、システム導入側の業務担当者の前でデータベースという用語を話したところ、そのあとでプロジェクトリーダーから、「お客さんの前で、データベースとか専門用語を使わないで」と注意された経験があります。
他に最近経験したことは、「B2B、B2C」についてです。これらの単語は、普段は使わないか、説明してから使っています。しかし、たまたま損益計算書や貸借対照表の構造やマーケティングの用語を説明なしで理解してくれていた人がいたので、この人にはビジネス用語を説明せずに話しても大丈夫そうだと思い込んでしまい、説明なしで「B2C、B2B」使ってしまったところ、「B2Cって何?」と問いかけられてしまいました。
こういった経験もあり、お客さんとお話しする際には、IT用語や経営用語などを、どうやって伝えたら分かりやすいのか、常に悩みつつ話をしています。

この逆に、システムを導入する側の企業の担当者(お客さん)から専門用語で話される場合もあります。
お客さんの話す専門用語は、一般的なビジネス用語から、業界的な専門用語、更には企業内だけで通じる独自の専門用語まで様々です。

こういった情報量の格差から、情報伝達のミスマッチが生まれることが多々あります。

専門家とのお客さんとの情報の非対称性

話し相手との情報量の格差を、情報の非対称性と呼びます。

商売において情報の非対称性が発生すると、その格差を利用して、情報をより多く持つ側が自己利益に走ることがあるといわれます。

例えば、弁護士は法律の専門家ですが、そのお客さんは法律の専門家ではなく、そもそも滅多にお世話にならない弁護士のサービスが、どの程度の価格が適正か知りません。
この際に、良心的な弁護士であれば、市場価格や相談事にかかるコストなどを話して、適正な価格での請求をします。
しかし、弁護士が自己利益に走り相場よりも高く請求しても、価格を知らないお客さんは、その価格を鵜呑みにすることが、しばしばあります。

他に、中古車の販売業の人が、車にくわしい人だったら絶対買わないような欠陥車を「廃棄するよりはまし」と考え、安く売ったとします。
しかし、中古車を買う側は、車に詳しい人ばかりではありません。
詳しい話を聞かずに、安い値段に飛びついて欠陥車を購入して、「安物買いの銭失い」という残念な結果に終わることもあります。

このようなことは、購入者側がよくわからない業界について専門家を頼る場合には、同じようなことが多々あるはずです。
そして、こういったことがまかり通るの業界の一つが、IT業界だったりします。

とはいえ、弁護の余地もあります。
情報の非対称性が発生しやすい業種とは、一般消費者が日常扱うことのない商品を扱っており、お客さんの利用頻度を考えると、多少なりとも割高な設定をしなければ、企業経営が成り立たないことも多いです。また、一般消費者には見えない部分で、多額のコストがかかっていることも多いです。

戻って、IT開発の情報の非対称性

自己利益に走る以外にも、IT業界には、情報の非対称性による弊害が、複数あります。
例えば、ITシステムの開発を発注する企業の持っている業務知識に比べると、ITシステムを作る側の業務知識は少ないです。このため、発注企業の業務知識が不足したまま、相手の言いなりで開発が進んでしまう可能性があります。しかし、業務には必ず例外事項や、言葉での説明では不足している詳細事項があったりします。
逆に、ITシステムを発注する側は、自分は話すべきことを話したつもりになっており、また、ITというよくわからないものは専門家にお任せ、という具合になってしまうことも多いです。
この結果として、数か月後~数年後にITシステムが完成した後に、「このシステムは使えない」ということにもなりがちです。

その回避方法のひとつとしてあるのが、「アジャイル開発」とか「リーン開発」といわれる開発手法を用いることです。
これらの手法では、まず、最小限のITシステムを作ります。
そして、作成したITシステムを使ったお客さんの反応を見て、ITシステムの改良をしたり、新たな小さな機能を追加したり、といったことを繰り返していきます。
このようなアジャイル系の開発手法をつかえば、お客さんとの情報量の格差があったとしても、被害が大きくなる前に軌道修正ができるという感じです。

とはいえ、この手法も何億円クラスの予算を持った大規模な開発だと、最小限の機能が大規模になるなど、アジャイル開発手法が使いにくい開発もあります。
また、今回のお話ししていた経営者との話では、完成物の納品が契約の官僚となる「請負契約」だと、ゴールが未設定なアジャイル開発手法はやりにくい、という話もありました。

 

私自身は、ITだけでなく、経営コンサルタントとしても、情報の非対称性には悩まされる日々です。
とはいえ、ITや経営の専門家として他業界の人へサービスを提供する以上、この悩みは解消されることはないのかもしれません。

(中小企業診断士 布能弘一)

話す相手との情報量の格差” に対して1件のコメントがあります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください