経営者が関与できなくなってから本当の事業承継問題が生じる
事業承継には大きく、人の承継、資産の承継、知的資産の承継の3つが存在します。
事業の売却(M&A)を除く前提ですが、事業承継の問題は先代経営者が元気なうちには、後継者に経営権を譲って会長に退いたとしても、さほど大きな問題は発生しません。
なぜなら、人の承継、知的資産の承継は、先代経営者が経営にある程度関与できれば、問題が起きても対処できることが多くあります。
資産の継承の面でも、会長からの事業への貸付金や個人不動産の事業用としての利用も、借入金に関する個人保証も、問題になることは多くありません。
しかし、先代経営者が死亡、もしくは病気や事故で経営に関与できなくなると、その状況が一変します。
- 先代経営者が死亡した場合、自社株式、事業用資産、会社への貸付金などの遺産相続が発生して、現経営者の経営権がなくなったり、法定相続分により事業用資産が使えなくなったりする。
- 病気・事故などで経営に関与できなくなった場合、借入金などの保証人、社長の持つ人脈などが活用できなくなる。
- 先代がカリスマ経営者であった場合や、引き継いだ現経営者が先代経営者と比べてコミュニケーション能力やリーダーシップに極端に差がある場合、従業員からの不満がつのる。
- 先代経営者を信用していた金融機関などの外部ステークホルダから不安視される。
など、さまざまなことがあります。
先代経営者が経営に関与できなくなってからが「引継ぎを行った現経営者の力の見せ所」ともいえますが、やはり、事前準備が必要です。
何故ならば、対処方法の多くは経営者の事前準備によってのみ解決でき、事後対処はかなり難しいと言えます。
- 個人資産の事業用途の把握と、遺産の適正配分、遺留分まで考えた公正証書遺言の作成
- 自社株式の後継者への売却・贈与などによる経営権の集中
- 先代経営者に依存しない社内体制の構築
- 後継者教育の実施や、先代経営者の持つ人脈の引継ぎ
- 従業員や金融機関、取引先などのステークホルダへの後継者の周知により後継者の認知度を高め、先代経営者の死後の混乱を防ぐ
- 後継者の自助努力による従業員への信頼獲得
こういったことは時間もかかるため、早めに行っておく必要があります。
自分が経営に関わないということを想像するのも嫌な経営者は多いと思いますが、先のことは誰にもわかりません。
ご自身の事業の継続・成長を考えるのであれば、できる範囲で、事前準備をしておきたいですね。
(中小企業診断士 布能弘一)